主人公をみつけた

世界の隅にいるオタクのブログ

名前を呼んでと歌うあなたの、その名前を呼べたこと

 

 

 今この瞬間、自分の内側をひたひたと満たす感情の名前がわからない。
 言語化しきれず宙ぶらりんになる感情こそ心臓を動かす本当の感情だとも思う。
 けれど伝えるにはなにかこの名前もつけられない輪郭のない心をどうにか枠にはめて差し出さないといけない。
 

 一番近い表現はきっと「しあわせ」で、
 しかし納得のいく表現は「怒り」で、
 だけど枠にはめるとしたら「さみしい」だし、
 引いた目でみるとそれは「誇らしい」だ。
 

 夢を叶える瞬間を、念願のステージに立つ瞬間を見届けたしあわせ。
 どうして辞めてしまうのかという子供の癇癪のような怒り。
 このまま9人でいてほしいとすがりついてしまいそうなさみしさ。
 だけどなにより、このステージに辿り着き、作り上げた今この瞬間の9人が誇らしい。
 

 だけど多分、これが全部じゃない。
 もっと細かくて、微妙なグラデーションを持った感情が湧いては乱れて心臓を打って、結局溜息や涙になって霧散して、心の底に沈殿して堆積していく。
 多分、もっともっとたくさんの時間が経ってそれが記憶の化石のようになってはじめてまともな分類が叶うんだと思う。
 

 

 

 3月14日。MeseMoa.日本武道館で夢を叶えた。
 素人から始まった彼らにとってあまりにも大きすぎる夢が叶う瞬間だった。
 暴風雨を予報されていたその日は、暑いくらいの晴天、雲ひとつない青空に恵まれた。
 このコロナ禍の中でほぼフルキャパの上歓声をあげて、名前を呼ぶことができた。
 誰一人欠けずに全員がステージに立った。
 奇跡がたくさんぎゅっと詰まった空間だった。
 

 すごく不思議なことに、私たちは当然、「めせもあ。につれてきてもらった」と思っていた。
 だけど彼らは彼らで、「イルミィにつれてきてもらった」と言っていた。
 ひとりのなかで完結しうる芸術と違って、エンタメは応える人がいないと成立しない。
 アイドルなんて、エンタメの最骨頂といってもおかしくない。
 「観ている人を幸せにする」ことにここまで全ステータスを振り切ってる職業は他になかなかないと思う。
 逆にいうと、観客次第では簡単にその道が塞がってしまう。私たちが体感しているよりもきっと、観客の存在はずっと重たいんだと思う。
 だけど、やっぱり私は彼らが導いてくれたんだと感じる。
 彼らは間違いなく、道を拓いた。
 彼らは間違いなく、暗い海に航路を見出した。
 彼らは間違いなく、奇跡みたいにきれいな花を咲かせた。
 私たちはもしかしたらその道の舗装に一役買ってたかもしれないし、航海図を作ることに貢献してたかもしれないし、雨風をしのぐひさしになれていたのかもしれない。
 だけどそれは彼らの行動に勝手に私たちファンが追随したに過ぎない。
 でも、一緒に夢叶えたんだよ。お互いの夢を叶えられたんだ。
 その事実だけが本当に尊くて嬉しくて、何度でも反芻してしまう。
 

 観ている間、ずっと楽しいと同時に怖かった。
 始まったら終わってしまう。終わりばかりは確実に訪れるのに、未来が訪れるかはわからない。
 武道館という夢が叶った瞬間を、私はひどく怯えていたんだと思う。
 この長い長い夢から覚めたら、次に見えるものはなんなんだろう。
 「パシフィック展望台」で歌っていた「天辺」は確実に乗り越えた。
 じゃあ「その先」ってどこ?
 このままゆっくり終息していくのかなあ、なんてことを考えもした。
 

 でも、その先が見えた。
 横浜アリーナだ。
 

 パシフィコ横浜のステージで「天辺のその先へ」と歌って彼ら9人が、「天辺」である武道館を乗り越え、同じ横浜の地でさらに大きな箱である「横浜アリーナ」にたつ。
 嘘みたいなストーリーだ。彼らは神様がシナリオを書いた最高のドラマなのかもしれない。
 もちろんそこが埋まるかどうかは彼ら次第だし、私たち次第だ。
 だけどきっとすごく素敵な光の海になると思う。
 笑って、9つの光で溢れた海のその先に、卒業する二人を送り出せると思う。
 

 

 今回のステージを迎えるにあたって、私は9人のことをあまり知らない友人を数人招待した。
 淺ましいけれど、自分なりに一つでもたくさん席を埋めるのに必死だった。
 彼女たちは自分たちがハマってるコンテンツのペンライトを持って駆けつけてくれて、そのうえ楽しかったと言ってくれた。
 あおいくんってかわいいね、白服さんをずっと観ちゃった、滑り台のVTR面白かった!
 4時間もずっと全力で歌って踊ってて、アイドルってすごいね、いい推しに出会えたね。
 そう言ってもらえて、すごく安心したし誇らしかった。
 そうなの、かわいいしつい目で追っちゃうし、面白いしすごいんだよ。
 直前に行われた特典会で、推しに友達を招待したことを伝えた時に「〇〇が恥ずかしくないように、案外かっこいじゃんって思ってもらえるように頑張るね」と言ってくれた。
 推しが有言実行してくれたことがすごく嬉しかったし、そうやって素直にこのライブを楽しんでくれた友人たちにも心から感謝したい。
 

 
 MeseMoa.日本武道館公演、成功本当におめでとう。
 偶然や奇跡のうえに、数え切れない努力を積み重ねてきた彼らにこれからもたくさんの祝福がありますように。